また聴きたい。また、あの雰囲気を味わいたい。
夢のような舞台が実現する。アンコールの声に応え、あの人この人がとっておきの音楽を携え、箕面に帰って来る。しかもその音楽は、お客さんのリクエストで決まった。
言葉にすると少々照れるが、オーケストラを仲立ちに人が環を成す、人が人を呼ぶ箕面のメイプルホールに響く3曲を見よ。パフォーミングアーツの新たな発信地となった箕面に、喜ばしい、と同時に驚きのナンバーが響く。常識的にはあり得ない、たっぷりとしたプログラム。
メインに選ばれたのは、ドナウ河畔の古都リンツと音楽の都ウィーンで神を讃える音楽を創り続けたアントン・ブルックナー(1824~1896)の交響曲第4番「ロマンティック」。祈りの情趣に大聖堂のオルガンに連なる壮大な響き、それに古き良き時代のオーストリアの自然、風習をも映し出す佳品で、あのホルンの響きを思い浮かべるだけで笑みがこぼれる、というかたもおいでだろう。ウィーン古典派を交えたブラームスの交響曲全曲演奏のあとにお客さんが味わいたいのは、ブラームスより少し年長で、同じ時代にウィーン・フィルや楽友協会を行き来したブルックナーの長篇交響曲だった!しかもブルックナーは指揮者坂入健司郎がデビュー以来、ここぞという場面で披露してきた最愛のレパートリーである。メイプルホールの、あの親密な空間に響く「ロマンティック」。開演前から少し興奮してしまっても構わないのではないか。さあ、箕面で信頼関係を培った坂入健司郎と大阪交響楽団の腕の見せ所だ。
箕面でベートーヴェン、ドヴォルザークのヴァイオリン協奏曲を弾いてきた石上真由子に委ねられたのは、流麗な旋律美も劇的高揚もお任せあれのサン゠サーンス(1835~1921)の協奏曲第3番で、こちらも心躍る選曲。石上は2024年秋もメイプルホールで室内楽に興じ、大響の名曲コンサート(ルードナー指揮、ザ・シンフォニーホール)ではヨーゼフ・ヨアヒムゆかりのブラームスを奏でた。来春はパブロ・サラサーテに献呈されたサン゠サーンスの華やかなコンチェルトで、はからずも19世紀の演奏史が浮き彫りに。気心の知れた石上、坂入、大響の再会を体感しない手はない。
開演を寿ぐのは、ブルックナーと同い年!のスメタナ(1824~1884)の代名詞「モルダウ(ヴルタヴァ)」で、百塔の街プラハを流れる大河をモティーフとした音絵巻に野暮な解説は不要だろう。
最高に贅沢なライヴが近づいてきた。すべてに拍手を。
奥田佳道(音楽評論家)
◆公演詳細はコチラをご覧ください→「《身近なホールのクラシック》みんなのリクエスト・コンサート」公演情報